ピネンはαだけじゃない?森の香りにひそむ成分の魅力
精油の成分の話 2025.10.14

ピネンはαだけじゃない?森の香りにひそむ成分の魅力

森林の中に一歩足を踏み入れたとき、すっと鼻を抜けるあの香り。
「ヒノキの香り」や「森林浴の香り」と言われるあの空気には、実は“成分”が関わっています。

よく知られるのが「α-ピネン」。でも、ピネンにはもうひとつ、見逃されがちな存在があります。
それが「β-ピネン」。

今回は、α-ピネンとβ-ピネンという2つの香気成分を軸に、日本の森の香り文化や、ピネンを多く含む精油の魅力を紹介します。


目次


ピネンとは?精油に含まれる「森の香り」の主成分

ピネン(Pinene)は、森林の香りを構成する主な香気成分のひとつで、精油に含まれるモノテルペン炭化水素に分類されます。

※モノテルペン炭化水素とは:
炭素10個で構成される揮発性の高い化合物。精油のトップノート(立ち上がり)を構成することが多く、香りの第一印象に大きく関わります。

ピネンには2つのタイプがあり、いずれも多くの植物が天然で生成しています:

  • α-ピネン(alpha-pinene)
  • β-ピネン(beta-pinene)

森林の清々しさや落ち着きのある香りの背景には、これらの成分が複雑に関係しています。


α-ピネンとβ-ピネンの違いとは?

α-ピネンとβ-ピネンは、分子構造がわずかに異なる「異性体(いせいたい)」の関係にあります。
見た目はどちらも無色透明で、揮発性が高く、空気中にふわりと広がる性質を持っています。

しかし、このわずかな構造の違いが、香りの印象に意外なほど大きな違いを生み出します。

  • α-ピネン:シャープでクリアな香り。針葉樹林を歩いたときのような清涼感があり、ヒノキやスギなど多くの樹木系精油に多く含まれます。
  • β-ピネン:針葉樹特有のウッディでフレッシュな森林のような香りに、ハーバルで薬草的なニュアンスを併せ持っています。ジュニパーベリーなどに多く含まれます。

どちらのピネンも、単体で香るを体験することは少なく、他の香気成分との重なりの中で、その個性が際立ちます。

たとえばヒノキ精油では、α-ピネンの清涼感にセスキテルペン類の深みが加わり、穏やかで静けさのある香りに。
ジュニパーベリーでは、β-ピネンの森林調にスパイシーさや樹脂感が重なり、シャープかつ立体的な香りが広がります。

こうした香りの印象は、ひとつの成分だけで決まるものではありません。
むしろ複数の成分が重なり合い、香りの「奥行き」や「個性」が生まれます。

αとβ、2つのピネンがあることを知っておくと、精油の香りをより深く感じることができるようになります。

α-ピネンとβ-ピネンの働きに違いはある?

α-ピネンとβ-ピネンは、どちらもモノテルペン炭化水素に分類される香気成分で、針葉樹系の精油や森林調の香りに多く含まれます。

では、この2つの成分に香りの印象以外の違い──たとえば「心身への働き」に違いはあるのでしょうか?

実際のところ、α-ピネンとβ-ピネンには共通する作用が多いとされています。

  • 抗菌・抗ウイルス・抗炎症といった植物が自らを守るための働き
  • 森林の香りを構成する成分として、深呼吸を誘うようなリラックス効果
  • アロマテラピーの分野では、血行を促す目的で使われる精油にも多く含まれています

このような共通点がある一方で、香りの性質や体感の違いから、使われ方や与える印象が少しずつ異なることもあります。

  • α-ピネン:清涼感とクリアさがあり、空気をすっきりと感じさせる方向に働きかける傾向
  • β-ピネン:ややウッディで落ち着いた香り。深く息を吐きたくなるような、静けさを誘う印象

こうした違いは、体感的な作用や香りの好みにも影響します。
どちらのピネンも、香りの背景にある成分として、深い呼吸やリラックス、めぐりを整えるような感覚につながることがあります。

香りを通して植物が持つ力にふれることで、日々の緊張がすっとほどける──。
そんな瞬間に、ピネンたちがそっと寄り添ってくれているのかもしれません。


ピネンを多く含む精油

α-ピネンやβ-ピネンを多く含む精油はいくつかありますが、ここでは代表的な精油をご紹介します。

精油名 ピネン含有量(参考) 香りの印象
ヒノキ(木部) α-ピネン:40〜50% 清涼感と木のぬくもりが同居する静かな香り
スギ(葉) β-ピネン:10〜20% フルーティさと、すがすがしさを感じる香り
ジュニパーベリー β-ピネン:20〜30% スッキリとした森林調、わずかにスパイシー
島ゲットウ β-ピネン:〜10% グリーンでスパイシー、南国を連想する香り

※含有量は産地や抽出方法により異なります。目安としてご参考ください。

「香りの個性を支える成分に目を向けると、精油選びがぐっと楽しくなります。


森の香りを暮らしに活かすブレンドのヒント

ピネンを含む香りは、空間に“自然の気配”をもたらしてくれます。

こんなブレンドがおすすめ:

  • ヒノキ木部精油+ユズ精油: 木の落ち着きに柑橘の軽やかさを添えて
    →この組み合わせは、冬の入浴シーンにピッタリ!ヒノキぶろにユズを浮かべてのんびり…なんてシーンを香りで演出できます。
  • スギ葉精油+和ハッカ精油: 森林調×爽快感でリフレッシュ
    →スギ葉精油はホルムアルデヒドの分解に関与するともいわれているので、お部屋にディフューズするのによい組み合わせ。
  • 島ゲットウ精油+ローズマリー精油: 南国の緑を思わせる爽快系ブレンド
    →オリエンタルな香りを作りたい時には、このブレンドに樹木系を足すとよいです。

精油の成分に注目すると、香りの組み合わせにも“意味”が見えてきます。
香りに迷ったら、「ピネンを含むかどうか?」という視点で選んでみるのもひとつの方法です。


まとめ|ピネンから見えてくる「日本の香り」の奥深さ

α-ピネンだけでなく、β-ピネンにも注目することで、森の香りの立体感や精油の個性がより明確に感じられるようになります。

ヒノキのやさしさ、スギの清々しさ、島ゲットウの明るさ。
ピネン類の香りはそんなに強くありませんが、それぞれに含まれるピネンが、ほかの成分と絡み合うことで香りの印象を支えているのです。

成分を知ることは、香りの奥行きを知ること。
香りを通して自然とつながる、そんな感覚をぜひ日々の暮らしに取り入れてみてください。


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